みなさん、こんにちは。NEULOの藤井です。
前回は「歩くことと記憶力の関係」について、いくつかの研究や事例を紹介させていただきました。
今回は少しテーマを変えて、「座る」と「身体」について考えてみたいと思います。
突然ですが、みなさんは「サルコペニア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
サルコペニアとは、加齢などに伴って筋肉量や筋力、身体機能が低下していく状態のことです。一般的には高齢者の健康問題として語られることが多く、「まだ若い自分には関係ない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
僕自身も、以前はそういうイメージを持っていました。ただ近年の研究によると高齢者だけのものではないことが示唆されています。
「まだ若いから大丈夫」は、本当に大丈夫なのか
Liら(2025)の研究では、18〜59歳の7,869人を対象に、身体活動や座位行動とサルコペニアとの関連を分析しています。(※1)
その結果、座位時間が1時間増えるごとに、サルコペニアとの関連を示すオッズ比が1.05となる一方、身体活動については1時間増えるごとにオッズ比が0.94となる結果が示されました。
つまり、この研究では、座っている時間が長いこととサルコペニアとの間に正の関連が、身体活動の多さとは負の関連が確認されています。
もちろん、この研究だけで「座っている時間が増えるとサルコペニアになる」と因果関係を証明したわけではありません。横断研究なので、そこには注意が必要です。
それでも、この研究が興味深いと思ったのは、対象が高齢者だけではなく、18〜59歳だったことです。
サルコペニアという言葉を聞くと、「年を取ってから考えればいいもの」と思いがちです。
でも、少なくとも研究の世界では、もっと若い年代も含めて、日々の身体活動や座位行動と筋肉の状態との関係が研究されています。
「まだ若いから大丈夫」と思っている今だからこそ、自分の身体について考えてみてもいいのかもしれません。
筋肉を考えるとき、「運動」だけを見ればいいのか
もう一つ、興味深い研究があります。
Moら(2023)は、60歳以上を対象とした17本の研究、25,788人のデータをまとめたメタ分析を行っています。(※2)
その結果、座位行動が多い人ほどサルコペニアとの関連が強く、座位行動とサルコペニアには有意な関連が認められました。
さらに、身体活動量などを考慮した分析でも、この関連が確認されています。
ここから考えさせられるのは、身体について考えるとき、「どれだけ運動したか」だけではなく、「普段どれくらい座っているのか」も一つの視点になるのではないかということです。
もちろん、この研究の対象は高齢者なので、その結果をそのまま若い世代に当てはめることはできません。
ただ、「身体を動かすこと」と「座っていること」は、別々に考えるのではなく、一日の過ごし方全体として考えてみる必要がありそうです。
そこで、少し自分たちの日常生活を振り返ってみたいと思います。
そもそも、日本人はどれくらい座っているのか
朝、電車に乗る。
会社に着いたらデスクに座る。
会議でも座る。
昼食を食べて、また座る。
午後はパソコンに向かい、仕事が終わったら電車で帰宅する。
家に帰ってからも、食事をして、ソファに座って、スマートフォンを見る。
こうして考えてみると、一日の中で「歩いている時間」よりも「座っている時間」の方が圧倒的に長い人も少なくないのではないでしょうか。
実際、日本は国際的に見ても座位時間が長い国の一つです。
2026年7月16日の日本経済新聞に、日本人が座りすぎである問題に関する記事がありました。
その記事の中で紹介されていた、20カ国・地域の成人約5万人を対象に行われた国際調査では、20カ国・地域全体の座位時間の中央値が1日5時間だったのに対して、日本は1日7時間。サウジアラビアと並んで最も長い水準でした。
一方、最も短かったポルトガルは2.5時間で、日本とは大きな差があります。
紹介されていた研究は2011年の調査ですので、多少の変化は起こっているかもしれませんが、ただ日本経済新聞に限らず、日本人の「座りすぎ」に対する課題感を様々な媒体で言及されていることを考えると、国際的にも日本は座る文化が根付いているのは間違いないように思います。実際に、これまでに厚生労働省が座りすぎていることを注意喚起する施策を打ち続けていることからも、国家目線でも危機感を持っていることが事実として考えられます。
では、なぜ日本人はこれほどまでに座っている時間が長いのでしょうか。
「働くこと」と「座ること」が、近づきすぎている
日経の記事でも紹介があった、早稲田大学の岡浩一朗教授らが発表した研究では、日本の成人の35.3%が1日8時間以上座っていると推計されました。(※3)
研究では、この「1日8時間以上の座位行動」を「座りすぎ」と定義し、座りすぎと関連する慢性疾患による日本の経済的負担を分析しています。
その結果、2021年度の日本における経済的負担は、年間約2,825億円と推計されました。これは、座りすぎに関連する慢性疾患の医療費や、早期死亡による生産性損失などを合わせたものです。
つまり、座ることはあまりにも日常的だからこそ見落としがちですが、長時間の座位行動は、私たちの身体だけでなく、社会全体にも無視できない影響を与えているということです。
「毎日、何時間座っているか」。
これまであまり意識してこなかった座っている時間を、一度見直してみると案外座っている時間が長いことに気づくかもしれません。
「座りっぱなし」をやめることから始めてみる
座りすぎの対策というと、「毎日運動する」「何かスポーツを始める」といった大きな行動を想像してしまいます。
ただ、WHOの「身体活動および座位行動に関するガイドライン」によると、30分に1回立ち上がって足踏みをする、トイレ休憩やコーヒーブレークを取り入れる、といった小さな行動も、座りすぎの対策となる身体行動として挙げられています。
忙しくてなかなか運動時間を確保することが難しくても、コーヒーブレイクを取るために少し立ち上がってみる、1駅遠くから歩いて出勤してみる、日常の中にある座っている時間を、立ったり、歩いたりする時間に変えてあげるだけで、身体にとって良い効果が生まれてくるかもしれません。
おわりに
今回は「歩く」に関するテーマからは少しだけずれて、「座る」と「身体」の関係に関して整理してみました。
私自身、日本経済新聞で公開された記事を読んで、世界的に座っている時間が長いのかと衝撃を受けました。そして自分自身の日常を振り返ってみた時に、オフィスで仕事をしている時間や電車に乗っている時間、食事をする時間など、1日の寝ている時間以外は座っている時間が多いことを改めて認識しました。
この文化自体は日本だけではなくて、海外でも同様にあるのではないかと思いますが、過密都市で高層ビルの中で仕事をする機会が多い東京の特性や、丁寧に張り巡らされた鉄道の発展状況など、歩く必要に迫られる状況が少なくなっているように感じます。
そして日本人の性格を考慮した際に、仕事中に頻繁に立ち歩くことが集中力がないように思われたり、他の人に相談しに行くことに抵抗感を感じたり、他の人を気にしすぎてしまう心理的側面もあるように感じます。
ただ以前もジャーナルでご紹介したように、海外では歩くミーティングが当たり前に取り入れられていたり、思考の整理をするにあたって「歩く」ことが合理的な手段だと認められていたり、外の世界に目を向けると座って仕事をし続けることが正ではないような気がします。
NEULOとして、様々なイベントの出展を各地方で検討を進める中で、この想いに共感してくださる企業さまや行政さまが一定数いることを肌感覚として感じています。「歩く」を通じて身体の健康や仕事の高いパフォーマンスを手にしている方が沢山いることは事実だと思います。
そうした日常で「歩く」や「立つ」方々の生活を足元から支えられるようなフットギアを作っていけるように、NEULOとしても歩き続けていきます。
参考文献・参考資料
- Li, Z., Yang, J., Yang, J., Liu, S., Guo, X., & Cui, Z. (2025). Impact of physical activity patterns and sedentary behavior on sarcopenia prevalence among adults aged 18 to 59: A cross-sectional study from NHANES. Medicine, 104(36), e44312.(※1)
- Mo, Y., et al. (2023). The association between sedentary behaviour and sarcopenia in older adults: A systematic review and meta-analysis. BMC Geriatrics, 23, 729.(※2)
- Mitsutake, S., Shibata, A., Ishii, K., Owen, N., & Oka, K. (2026). The economic costs of excessive sedentary behaviour in Japan. Journal of Public Health.(※3)
- 厚生労働省.(2024).『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』.
- 日本経済新聞.(2026).「座りすぎ大国ニッポン、立ち作業で集中力アップ 企業・学校が独自策」.