みなさん、はじめまして。NEULOの藤井です。

今回は「歩く」ことの大切さについて、いくつかの文献をもとに整理してみました。

私自身、「歩く」重要さを考えるきっかけになったのはコロナ禍でした。外に出る機会が減り、家の中で過ごす時間が長くなる。すると、身体だけでなく気分まで少しずつ重くなっていく感覚がありました。

特に印象に残っているのは、外出を控えるようになった祖母の身体の変化です。歩く機会が減ったことで、以前よりも急に身体が弱くなっていくように見えました。

もちろん、それだけが原因だと簡単には言えません。ただ、あの時期に多くの人が身体を動かさなくなることへの不安や、外に出ないことへの不安を、どこかで感じていたのではないでしょうか。

外に出て歩くことが大切なのは、なんとなく分かる。

でも、実際にはどんな意味があるのか。

なぜ人間にとって「歩く」ことは重要なのか。

第1回の記事ということもあり、私なりに「歩く」を考えて整理してみました。

人間は、なぜ歩かなくなったのか。

朝起きて、椅子に座る。電車に乗る。会社についてデスクワークをする。帰宅してソファに座る。お腹が空いたらUberで料理を注文し、買い物はAmazonで済ませる。

私たち現代人は、あまり歩かなくても生きていける時代を生きています。

一方で、人類は歩くことを前提に進化してきました。

何百万年ものあいだ、人類は狩猟採集をしながら、食料を探し、水を求め、仲間と移動して生きてきました。もちろん電車や自動車なんてものはなく、生きるための移動手段として歩き続けてきました。

しかし技術の進歩によって、人間の生活様式は大きく変化しました。移動しなくてもリモートワークで働ける。外に出なくても買い物ができる。直接会わなくてもオンラインでミーティングができる。

ここ数年の技術革新をとってみても、自動運転技術やオンラインツールの進歩によって、益々歩かなくても生きていける世の中に変化しています。

私たちは本来、もっと歩く生き物だった

狩猟採集民族だった時代と比較して、私たちはどれくらい歩かなくなったのでしょうか。

このテーマを考える上で、これまでにタンザニアの狩猟採集民「ハッザ族」を対象にした研究があります。「ハッザ族」はタンザニア北部・エヤシ湖周辺に住む少数民族で、現在も狩猟採集を主な生活基盤としています。農業や牧畜に依存せず、野生の動植物を採取・狩猟して暮らしているため、農耕以前の人類の生活様式に最も近いとされています。

Woodら(2021)によると、ハッザ族の成人男性は1日におよそ12.9km、女性は7.6km移動し、推定で1日当たり1万〜1万8,000歩を歩いていると推察しています。つまり狩猟採集が必要だった時代には、1日あたり1万歩以上歩くことが当たり前だったのではないかとここから推察されます。(※1)

その一方で、スタンフォード大学が111か国・約72万人・6,800万日分のスマートフォンデータを分析した研究では、現代人の平均歩数は4,961歩でした。(※2)

一概に比較できる数値ではありませんが、私たちは進化の過程で、人類として当たり前だった活動量よりも大幅に歩かなくなった可能性があります。

歩かないことで失うもの。歩くことで得られるもの。

私たちは、歩かなくなったことで何を失っているのでしょうか。また歩くことによって何を得ているのでしょうか。

Battistaら(2025)のレビューによると、身体活動不足や長時間の座位行動は、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)やフレイル(心身の脆弱化)の進行と深く関係していることが報告されています。筋肉が衰えると動くことが億劫になり、外出の機会が減る。人と会う機会が減り、新しい刺激に触れる機会も減る。そして活動量はさらに低下していく。ひどい場合はそんな負の連鎖に陥ってしまいます。(※3)

また歩かなくなることによるサルコペニアのリスクは高齢者に限った話ではありません。

Liら(2025)が18〜59歳を対象に行った研究では、座っている時間が1時間伸びるごとにサルコペニアのリスクが5%増加するという結果が出ています。ただその一方で、身体活動が1時間増えるごとにリスクが6%低減されるとの結果も出ています。(※4)

では「健康」以外に歩くことで得られるものは何があるのでしょうか。様々なものがありますが、大切なものの1つに「創造性」があります。

スタンフォード大学が行った研究では、歩行中の創造的思考のスコアが座位と比べて約60%向上したことが示されました。特に「拡散的思考」(一つのテーマから多様なアイデアを広げる力)への効果が顕著でした。(※5)

論文や書籍の内容だけでなく、日常的に歩くことを大切にされている方のお話を伺う中で、歩くことによって血流が促進されて脳が活性化するだけではなく、触れるものが増えることで感性が育まれ、創造性の高まりに繋がっているのではないかと感じます。

※サルコペニア:四肢骨格筋量(ASM)と体格指数(BMI)の比率を使用して筋肉量の適切性を評価。ASM/BMIの比率が女性の場合は0.512未満、男性の場合は0.789未満の場合サルコペニアと評価される(Li et al., 2025)。

84歳の建築家が今も歩き続ける理由

「歩く」を考える上で、私自身が最も尊敬する方の1人「安藤忠雄」さんから学んだことがあります。

安藤さんは、独学でプロボクサーから建築家となり、国内外で代表的な作品の数々を手がけ、建築界のノーベル賞とも言われる「プリツカー賞」を受賞した日本を代表する建築家です。関東に住んでらっしゃる方は「表参道ヒルズ」を通して、安藤さんを感じられた方も多いのではないでしょうか。

安藤さんは先述の通り、プロボクサーから大学に通わずに独学で建築家になった異例の建築家です。そんな安藤さんの書籍では若い頃に7か月ヨーロッパを歩きながら建築を学んだとの記述があります。実際に自分の足で歩き、建築や人の動きといった都市を肌で感じることで、感性を育んだのではないかと感じます。

また安藤さんは68歳と73歳の大きく2つのタイミングでがんを患い、「五臓六腑」と言われる臓器の「五臓」すべてを摘出しています。そんな苦しい時期を経てもなお、84歳の現役で一線で活躍する背景には「1日1万歩」の習慣があるとのことです。もちろん「歩く」だけが一線で活躍し続ける要因ではないと思いますが、様々なインタビュー記事を拝見する中で、安藤さんの人生を支えているものの1つに「歩く」があるのは間違いないように感じます。

そんな世界を何歳になっても見続けられるような一足を、これまでの人生でお世話になった方々、これから出会う皆様に届けられるように、NEULOで戦っていきたいなと思います。

また「歩く」や「足」をテーマに、日常で感じる疑問や、解決したい課題がありましたらお気軽にお問い合わせください。個別での回答やジャーナルでテーマとして取り上げさせていただきます。

参考文献

  1. Wood, B. M., Harris, J. A., Raichlen, D. A., Pontzer, H., Sayre, K., Sancilio, A., Berbesque, C., Crittenden, A. N., Mabulla, A., McElreath, R., Cashdan, E., & Jones, J. H. (2021). Gendered movement ecology and landscape use in Hadza hunter-gatherers. Nature Human Behaviour, 5(4), 436–446.(※1)
  2. Althoff, T., Sosič, R., Hicks, J. L., King, A. C., Delp, S. L., & Leskovec, J. (2017). Large-scale physical activity data reveal worldwide activity inequality. Nature, 547, 336–339.(※2)
  3. Battista, F., et al. (2025). Sedentary lifestyle and physical inactivity: A mutual interplay with early and overt frailty. Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases.(※3)
  4. Li, Z., Yang, J., Yang, J., Liu, S., Guo, X., & Cui, Z. (2025). Impact of physical activity patterns and sedentary behavior on sarcopenia prevalence among adults aged 18 to 59: A cross-sectional study from NHANES. Medicine, 104(36), e44312.(※4)
  5. Oppezzo, M., & Schwartz, D. L. (2014). Give your ideas some legs: The positive effect of walking on creative thinking. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 40(4), 1142–1152.(※5)
  6. 安藤忠雄.(2010).『歩きながら考えよう―建築も、人生も』. PHP研究所.
  7. 安藤忠雄.(2012).『仕事をつくる―私の履歴書』. 日本経済新聞出版社.
  8. 読売新聞オンライン.(2023).「病気になっても、人生は終わらない―建築家・安藤忠雄さん」. https://www.yomiuri.co.jp/
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